イノベーションの力を解き放ち、生物多様性の喪失を食い止める
生物多様性の喪失を食い止めるためには、革新的なソリューションが不可欠です。
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気候と自然
- 生物多様性の喪失は憂慮すべき速さで進行しており、地球上のすべての生命体に深刻な影響を及ぼしています。
- 革新的な取り組みが効果を発揮する一方、より多くの取り組み、支援と資金が必要です。
- 世界経済フォーラムは、新たなUpLinkイノベーション・チャレンジを立ち上げ、生物多様性の保全、保護、回復を促進するためのソリューションを呼びかけます。
生物多様性とは、地球上のすべての生命体とそれらが生息する調和の取れた生態系を包含する、広範かつ複雑な概念です。そして、この複雑さの根底には、生物多様性が機能しなければ、人類は深刻な危機に直面するという、シンプルで厳然たる現実があります。
食べ物から空気まで、生物多様性は、私たちが健康で幸せな生活を維持するために必要なすべてのプロセスを育んでいます。たとえば、世界の農作物生産の約3分の1は、花粉媒介者である鳥、ミツバチ、昆虫に頼っているほか、サンゴ礁やマングローブは、沿岸地域を激しい嵐から守る自然の盾としての役割を果たしています。
それにもかかわらず、生物多様性の喪失は前例のない速さで進んでおり、人類に深刻な影響を与えています。
生物多様性を守る希望の光
世界経済フォーラムの調査によると、世界の総国内総生産(GDP)の半分以上にあたる44兆ドルもの経済価値が、中程度または高度に自然とそのサービスに依存しています。この重要な自然資本は、世界経済の生命線であるにもかかわらず、深刻な劣化と枯渇の脅威にさらされており、生物多様性は過去50年間で世界の約70%が失われ、絶滅の危機に瀕している種は100万種に上ります。
一方、生物多様性の喪失を抑制し、自然の回復と再生に不可欠となる持続可能な生産・消費への転換に必要な資金は、現在、年間7,000億ドルも不足しています。
しかしながら、今であれば不可逆的かつ壊滅的な生物多様性の喪失を回避できるかもしれません。自然、人間、経済のすべてに利益をもたらす方法はまだ残されており、(少なくとも一部の地域では)私たちが正しい方向に向かっていることを示す指標があります。
まず、政策レベルでの取り組みに動きが見られます。たとえば、英国では、新たな法律が施行され、建設業者は新規プロジェクトにおいて自然生態系の改善に貢献することが義務付けられました。
一方、欧州連合(EU)の自然再生法には、2030年までにEU諸国の陸地および海域の自然を少なくとも20%を回復させ、2050年までに回復が必要なすべての生態系を再生させるという目標が盛り込まれています。
また、企業の取り組みも加速しています。自然の価値を認識し、300社以上の企業が自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言を基盤とする自然を中核に据えた情報開示を企業報告書に加えています。
生物多様性に焦点を当てたイノベーター
しかし、生物多様性を回復の軌道に乗せ、地球の未来を守るためには、政治的な意思や企業のコミットメントだけでは不十分です。
イノベーションのアプローチにも根本的な転換が求められる中、テクノロジーと協力の力を活用し、生物多様性の喪失の根本原因に対処する革新的なソリューションの開発が進んでいます。生物多様性を測定・モニタリングする新たな手法から、地域のバリューチェーンを強化するソリューションまで、イノベーションは、よりレジリエント(強靭)で生物多様性に富んだ世界を創造するための道を提供します。
英国を拠点とするスタートアップNatureMetricsは、その一例です。同社は、最先端の遺伝子技術を活用して生物多様性をモニタリング・報告し、生物が環境を移動する際に残すDNAの痕跡である「環境DNA」を収集・分析。データは、インタラクティブなマップ、チャート、ダッシュボードに反映され、世界中の企業、政府、NGOが信頼できる方法で生物多様性への投資を測定・追跡できるよう助けます。
さらに、米国のスタートアップBoomitraは、新たな手法で生物多様性をモニタリング。AI(人工知能)とリモートセンシングを利用して土壌中の炭素含有量を調査、検証します。Boomitraは、農家との連携で炭素除去を促進する農法を採用。回収した炭素を定量化して炭素クレジットを発行し、持続可能性目標の達成に取り組む企業や政府と取引します。現在、500万エーカー以上の土地を管理している同社は、2023年に「アースショット賞」を受賞しました。
その他にも、企業による、自然の保護・回復に対する投資価値への理解を助けているイノベーターグループがあります。たとえば、コロンビアに拠点を置くスタートアップTerrasosは、「生物多様性クレジット」や「生物多様性バンク」などの資金調達メカニズムのパイオニアであり、民間の土地所有者と提携し、牧畜、鉱業、農業などの活動によりダメージを受けた土地の保全・回復に取り組んでいます。
一方、Virridius Terraのプラットフォーム「TreesofLife」は、バイオテクノロジーを利用して劣化の進んだ土地を回復させることで、修復、再森林化および自然に基づく炭素除去のコストを低減すると同時に、顧客に利益をもたらしています。
また、起業家たちもバリューチェーンに「ポジティブな破壊」をもたらし、社会経済に大きなインパクトを与えています。ブラジルの小規模農家協同組合であるCOOPAVAMは、アマゾンの先住民コミュニティと密接に連携。仲介業者よりも最大80%高い報酬を先住民族に支払うとともに、森林保護活動に必要な機材やトレーニングの提供および技術支援を行っています。
新たなイノベーション・エコシステム
これらのスタートアップは、世界経済フォーラムのオープン・イノベーション・プラットフォームであるUplinkが選出したトップイノベーターで、ソリューションを拡大させるための支援を受けています。トップイノベーターは、生物多様性の喪失を食い止める有望なソリューションがすでに存在することを証明しています。しかし、加速する生物多様性の喪失を逆転させる上で、世界は、より多く、より大規模なソリューションを一刻も早く必要としています。
変化のペースを加速させるために、UpLinkは、こうした起業家が相互に関与し合うイノベーション・エコシステムを構築しています。3月には、世界経済フォーラムがUpLinkの最新のイノベーション・チャレンジである「生物多様性チャレンジ(Biodiversity Challenge)」を、「ビラールス・インスティチュート・サミット(Villars Institute Summit)」で発表。同サミットでは、UpLinkコミュニティから70以上のイノベーター、投資家、専門家、パートナーが結集し、生物多様性と気候危機へのソリューションの前進を目的としたプログラムが実施されました。
「1t.org」と「Mercuria」との提携により始動した「生物多様性チャレンジ」は、生物多様性の保全、保護、回復を促進し、健全な生態系に不可欠なサービスを維持する革新的なソリューションを求めています。
イノベーションの力を最大限に解き放ち、生物多様性の喪失を食い止めるには、企業による自然を中核に据えた実践が組み込まれたビジネス、投資家による自然資本の活用、政府による生物多様性の保全を優先する政策の制定・施行など、集団的な行動が不可欠です。
今ある生物多様性を救うために残された時間は長くありません。自然を重視する世界への新しい道をイノベーターが切り拓こうとしている今、私たちは、行動を一致させ前進する必要があります。
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