都市の購買力がイノベーションを育てる

都市による公共調達は、世界のGDPの8%を占めています。
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都市と都市化
- 多くの国で公共調達はイノベーションの障壁として認識されており、信頼性の高いソリューションを持つサプライヤーの入札を妨げています。
- いくつかの国や地方自治体は、公共調達の力を見直し、法律的、文化的な障壁の解消に取り組んでいます。
- 「G20グローバル・スマートシティ・アライアンス」は、世界の都市が調達を通じてイノベーションを起こすための実践的なステップを盛り込んだ基本モデル政策を発表しました。
地方自治体は、企業サプライヤーからの商品およびサービスの購入に多くの資金を費やしています。2021年には、世界のGDPの8%に相当する年間6兆ドルもの資金が消費されました。このような納入契約は、サプライヤーにとって大きな商機であると同時に、地方自治体が市場を形成し、環境に配慮したサステナブルなモビリティ、公衆衛生の改善、安全かつアフォーダブルな住宅、レジリエントなインフラなど、優先度の高い政策目標に取り組む上で企業の研究開発を誘導する政策ツールでもあります。
しかし、多くの国では、公共調達はイノベーションや改善の障壁であり、慎重に進めなければならない必要悪であると広く認識されています。この認識の一部は事実です。英国政府の国家イノベーション戦略(2021年)は、公共調達の文化は、「パブリックセクターの全体的な文化、専門知識、インセンティブ構造」による「リスクと実験に対する低い意欲」により特徴付けられると指摘しています。
その結果、起業家精神の高いサプライヤーの多くは、入札に参加しなくなるのです。実際、2021年1月から2023年1月までに公募した英国の公共入札の20%は、1件しか入札がありませんでした。
これは、公共サービスを改善する可能性を逃してしまうことになるため、これは納税者にとって好ましくないニュースです。しかし、「財布の力」は状況を一変させる可能性があります。
新たな始まり
近年、国や地方のリーダーたちは公共調達の力を再発見し、その可能性を制限してきた法律や文化的障壁を取り払おうとしています。経済協力開発機構(OECD)による分析では、公共調達は、政府がイノベーションや思考の多様性を促進し、社会課題に対処するための戦略的手段であるとされています。
また、英国政府の国家イノベーション戦略でも、公共調達は、新製品を生み出し、ビジネス拡大に必要な商業資金を提供する点で、イノベーション経済を活性化する強力な手段であるとされています。現在、EU、英国、米国、その他の地域のリーダーたちは、国内法を通じてイノベーションに適した調達手続きを利用することができるようになっています。
こうした権限を利用し、単なる資金提供ではなく変革を推進する都市自治体も増えています。例を見てみましょう。
- ゴミ捨て場と化した狭い路地裏からのゴミ収集という課題に直面した英国のリバプール市議会は、イノベーションに適した調達アプローチを用いて市場を巻き込み、新しいソリューションを特定、評価、統合しました。路地裏に保管庫を備えた共同廃棄物収集ポイントを設置することで、路地裏はコミュニティスペースとして復活。帰属意識が生まれ、近所付き合いが促進されました。リサイクル拠点が明確になったことで回収率は270%上昇し、作業方法の刷新で回収コストは1軒あたり56ポンドから32ポンドに低減。二酸化炭素排出量も60%削減されました。
- フェリーが重要な交通インフラとなり、その大部分が公共サービスとして運営されているノルウェーでは、地方政府により、すべての新規フェリー契約に可能な限り低排出ガス技術を使用することが義務付けられています。この市場牽引力により、ディーゼル・フェリーに代わって電気で動くフェリーが導入され、排出量は95%削減、コストは80%削減されました。
- 米国ニューヨーク州イサカ市では、6,000戸の住宅の電化を目指す野心的なグリーン・ニューディールの一環として、需要を取りまとめて事前一括購入を実施。ヒートポンプなどの改修技術のコストを30%低減しました。
- 米国カリフォルニア州サンフランシスコ市は、官民連携のキャンペーン「YES San Francisco Urban Sustainability Challenge(サンフランシスコ都市型持続性チャレンジ)」を通じて、持続可能性に関する目標を達成するための14の新技術を導入しています。
現在、市当局がベストプラクティスを採用する上で最大のハードルとなっているのは、利用可能なツールが広く知られていないこと。こうした課題に対処するため、さまざまな国がイノベーションに適した調達を提唱し、新しい行動を受け入れる地域のリーダーたちを育成するためのセンター・オブ・エクセレンスを設立しています。フィンランドのサステナブルで革新的な公共調達のための能力センター(KEINO)、オーストラリアのローンチビック(LaunchVic)、英国のイノベーション調達エンパワーメントセンター(IPEC)などがその例です。
都市管理者の権限を強化し、イノベーションに適した調達の導入を
2022年、「G20グローバル・スマートシティ・アライアンス」はイノベーションに適した調達に関する国際的なベストプラクティスと見識を共有するための新たなタスクフォースを立ち上げました。このタスクフォースは、市民リーダー、企業の代表、学者を巻き込んで、バルセロナからベルファスト、ヘルシンキからロングビーチまでの世界的な先駆的実践事例をマッピングするものです。
タスクフォースのメンバーは、これらの知見を新しいモデル政策「イノベーション・フレンドリー調達」にまとめました。このモデル政策では、世界の都市が調達を通じてイノベーションを起こすための実践的なステップを提示。都市の関係者が新たな購買行動を受け入れ、企業のイノベーションの変革力を活用できるよう支援することを目的としています。調達の専門家だけでなく、地域サービスにより良い成果をもたらすことに関心のあるすべての人が対象です。
モデル政策の提言は3つの分野に分類されており、要約は次のとおりです。
- プロセスから結果を得るのではなく、求められる結果によってプロセスを形成する、目的主導の調達を受け入れること。実地試験段階を含めるため、時間はかかるかもしれませんが、斬新なソリューションに価値があると認められれば全体的なコストは節減できるでしょう。
- 新しいアプローチを提唱し、ニーズに合った適切な市場エンゲージメントの仕組みへと導くことができる、十分な情報と権限を持つチームを育成すること。エンゲージメントの設計が不十分であれば、不満が募り、イノベーション調達全体に対する信頼が損なわれる可能性があります。
- 新しいサプライヤーの開拓に投資し、なじみの候補者以外にも機会を提供すること。最高のサプライヤーが、どこに目を向ければいいのか、ニーズに対応するソリューションをどのように組み立てればいいのかを必ずしも知っているわけではありません。入札情報を公開して終わりではないのです。
日常的な支出をイノベーションの燃料に
調達に新たなアプローチを取り入れる利点はもう一つあります。それは、都市の既存の支出をイノベーションの燃料に変えることができるということ。公的資源を追加する必要はありません。イノベーションのための資金だけでは、実施への道筋が見えないまま、限られた試験的な取り組みしかできない場合があります。イノベーションに適した調達とは、イノベーターと、差し迫ったニーズ、実際の予算を持つサービス・マネジャーをつなぐものです。世界中の都市が、総契約費の5%をこの方法で配分することを約束すれば、2023年に、米国防総省の国防高等研究計画庁(DARPA)に与えられた資金の73倍に相当する3,000億ドルを、イノベーション・エコノミーに注入することができます。
都市は、常にイノベーションの原動力であり、その時々の課題に対する新たなソリューションを生み出し、実行してきました。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、そして、気候変動による緊急事態や世界的な人口減少の圧力に直面している今、私たちはあらゆる手段を駆使して、未来の都市を安全かつ持続可能で豊かなものにするソリューションの開発と普及を加速させなければならないのです。
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