高齢者にリスキリングを行う最善の方法とは?

高齢者の労働市場への参画は、労働者全員に恩恵をもたらします。
Image: Unsplash/Amy Hirschi
Sofiat Makanjuola-Akinola
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労働力と雇用
長寿化に伴い、労働人口の状況が変わりつつあります。経済協力開発機構(OECD)諸国では、労働年齢層(15~64歳)に占める65歳以上の高齢者の割合は、2050年までに5人に2人になると予測されていますが、これは2018年には4人に1人だった数値です。世界の人口は2050年に99億人に達すると見込まれており、そのうちおよそ21%(21億人)が60歳以上の高齢者となるのです。
寿命が長くなれば、その恩恵として経済に貢献できる期間は長くなり、経済成長を持続させる機会が生まれます。そして、複数の世代を含む労働人口を成功に導くために重要な存在となるのが高齢の労働者です。
しかし、この新たな長寿社会を活用し変革を支えていくためには、あらゆる年齢層にやさしい政策機会を創出していかなければなりません。例えば、より柔軟な働き方や退職制度の提供、生涯学習の促進、あらゆる年齢層にとって働きやすい職場作り、労働環境全般の改善などが挙げられます。
再教育、リスキリング(新たな学び・研修)、アップスキリング(技能向上)に投資することで、すべての労働者の生涯にわたる雇用可能性が向上します。こうした機会を利用することで、経済の繁栄と国民の健康の実現に向けた歩みにすべての労働者の全面的な参画を保証することができます。
高齢者の貢献と継続的雇用に関しては、いくつかの誤解があります。労働力参加に影響を与える要因は年齢だけではありません。技術の進歩と構造変化は、年齢を問わず労働者全員に影響を与えているのです。
「新しい技能を習得したり、他者と技能を共有したりすることは、豊かな経験になります。しかし、高齢者にとっては、職場での新しいキャリア、新しい役割にはずみをつけるというよりも、課題となるケースが多いように見受けられます。そのため、高年齢労働者が持つ専門的な経験と人生経験という大きな資産を、雇用者と同僚たちは失ってしまうのです」と、欧州委員会の民主主義・人口動向担当副委員長であるドゥブラフカ・シュイカ氏は述べています。
私たちはこうした固定概念を乗り越え、就労期間の長期化に応える包摂的な政策と職場環境を作る必要があります。一部の国では、働き続けたい人々の定年退職の引き上げや廃止することで、この問題に正面から取り組んでいます。総合的に言えば、政策を立案する際に高齢者が実に多様性のあるグループであることを念頭におくことが大切です。
「何歳になってもリスキリングを行うことは、多くの人々にとって現実的になりつつありますが、この取り組みに高年齢労働者がもたらすことのできる貢献はいまだ十分に発揮されていません。高齢者は年下の同僚たちを指導することで、その専門性と知識を引き継ぐことができると同時に、自身もまた新たな役割を担うことができるのです」とシェイカ氏は強調します。
「これ以上に双方の利益となる関係があるでしょうか?」
高齢者の参加を後押しし双方の利益となる関係を実現する最善の方法とは、どのようなものでしょうか?私たちは「ジョブ・リセット・サミット2021」の開催に先駆けて、世界経済フォーラム「健康な高齢化と長寿に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」のメンバーたちに意見を求めました。以下に詳しくご紹介します。

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「複数世代の労働力を受け入れる」
アラブ首長国連邦首相府幸福およびウェルビーイング国家プログラム責任者
アリヤ・アル・ムラ氏
政府と企業は、従業員のウェルビーイング(幸福)を向上させるための政策を立案するにあたり、ライフコースアプローチを統合する必要があります。これにより、仕事はより人間らしいものとなり、より公平な経済参加をもたらします。複数の世代の労働力を受け入れることは、すべての労働者の貢献を認めることになります。年配の労働者はその知恵と人生経験をもたらし、より新しい教育や技能を持ち、テクノロジーを得意とする若い労働者の技能を補完する。こうした複数世代の労働力はリスキリングの機会をもたらし、すべての労働者がすべてのライフステージで生産性を発揮できるよう、力を与えるチャンスとなります。未来の仕事は、より包摂的なアプローチで従業員の生涯学習を行い、長寿化した人生がもたらす恩恵を受けることになるでしょう。
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「学習に年齢は関係ない」と認識する
世界経済フォーラム 第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長 藤田卓仙、同プロジェクトフェロー 鈴江康徳
日本では、労働基準法により高齢者の70歳までの就労を支援しており、雇用者は定年退職を70歳まで引き上げるか、場合によっては定年退職自体の廃止が求められています。学習に年齢は関係ないことを示しているのが、日本人女性の若宮正子氏です。若宮氏は、58歳のときに初めてパソコンを購入。Microsoft Excelをデザインツールとして利用したExcelアートを考案し、衣服やうちわをデザインします。81歳で高齢者ユーザーを対象にしたスマートフォンのゲームアプリ「hinadan」を開発し、世界最高齢のアプリ開発者として注目されました。86歳の現在、高齢者にスマートフォンの使い方を教えるワークショップを開催しています。デジタル・ディバイド(情報格差)が包摂的な社会を阻害するという視点から見れば、リテラシー向上は労働者だけでなく社会を構成する全員に対して検討すべきでしょう。
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「役割を再定義し拡大する」
ネオム社 ヘルス&ウェルビーイング&バイオテクノロジー部門 エグゼクティブダイレクター マリハ・ハシュミ氏
人口の高齢化に対応するために、役割の再定義と拡大が不可欠でしょう。OECD諸国32か国で2030年までに医師が40万人不足するとされている現在、人口の高齢化と医療技術の革新により、医療サービスへの需要が増大しています。そして、この人口の高齢化は、こうした革新を通じてこの需要を支えることができるのです。パンデミック(世界的大流行)により明らかになった課題は、あらゆる場所でバーチャルケアの利用を増加させています。私たちは、ヘルスケアの入口となるライフコーチ、心理学者、看護師、栄養士のチームの一員に高齢者が加われるよう役割を再定義し拡大することで、医師不足を解消し、デジタルヘルスシステムの有効性を活用することができるのです。
テクノロジーを利用して、高齢者がどこにいてもヘルスケアのサポートができる機会が増えれば、これほど優れたリソース活用があるでしょうか。
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「高齢者の市場への再参入を促進する」
ブラジルの国際長寿センター所長 アレクサンドル・カラッシュ氏、Maturi-Brazil社CEO兼ILC-Brazil社役員 モリス・リトヴァック氏
労働者の再教育の取り組みは、高齢者にもっと焦点を当てたものでなければなりません。仕事の世界は急速に変化しています。あらゆる年齢層の人々が労働に持続的に関わるために欠かせない要素は、これまで以上に生涯学習を組み込むこと、そして、一方的に行動できる起業家精神、技能と自信を身につけることです。これは、ネットワークの中で働く場合でも変わりません。新しい人口動態の現実は、すべての企業、CSO、公共セクターが、高齢者の市場への再参入を促進する革新的なプログラムの開発に重点を置くことが必須であることを示しています。Maturi-Brazi社は、ビジネス界において、高齢者を含む労働力が持つ戦略的かつ社会的な恩恵についての認知を高めており、新しい仕事の世界に向けて50歳以上の労働者のトレーニングを優先しています。

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「高齢者の適応力とレジリエンスを高める機会」を創出する
国際連合 国連経済社会局(DESA) アマル・アボウ・ラフェ氏
未来の仕事はますます複雑化してきているため、高年齢労働者が適応力とレジリエンス(強靭性)を強化する機会を提供する生涯学習システムが必要です。リスキリングとアップスキリングの取り組みへの投資は、高齢者特有のニーズ、モチベーション、嗜好、多様なアイデンティティに適応したものであるべきです。さらに、投資を通じて、高齢者の雇用状態を持続させたり、雇用市場を容易に動きまわる能力を高めたりする必要もあるでしょう。リスキリングの取り組みは、個人の自己肯定感や尊厳、充実感を高めることにもつながります。インフォーマル経済で働く高齢者、遠隔農村部の住民、少数民族の人々、トレーニングの機会に恵まれないことの多い難民や移民など、訓練を受けられないことが多い人々を排除してはなりません。
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高齢者支援のための新たなテクノロジーの導入

ロンドン・ビジネス・スクール経済学教授
アンドリュー・スコット氏
これからの時代は、新たなテクノロジーと高齢者人口の増加が交差することになるでしょう。そして、新たなテクノロジーは、3つの方法で高齢者をサポートします。
1つ目は、アクセスしやすい魅力的な方法で新しい学習方法を提供すること。2つ目は、ロボットの活用で既存の仕事が物理的にやりやすくなること。3つ目は、テクノロジーが職場で人間のスキルを代替するのでなく補強すること。これが最も重要なポイントです。
機械が機械としての性能を高めれば、人間は人間らしい強みを伸ばすことに集中できるようになります。これら新たなテクノロジーはあらゆる手段を提供し、高齢者の労働力を支えます。そしてこれらテクノロジーの多くに、高齢者は比較優位を持っていることが研究によって明らかにされています。
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生涯学習の機会を確実なものとする
アメリカ退職者協会(AARP)プログラム担当シニア・バイスプレジデント ジーン・セッツファンド氏、同エグゼクティブ・バイスプレジデント兼最高公共政策責任者 デブラ・ホイットマン氏
すべての年齢層の労働者は、職場で必要とされるスキルを身につけ、維持することを望んでいます。時間の経過とともに必要とされるスキルが変化することを考えると、私たちは皆、生涯学習者になる必要があります。しかし、研修や能力開発の機会は、必ずしも高齢者に平等に提供されているわけではないのが現実です。
労働者、企業、NGOと政策立案者は、高齢者が参加しやすいようにリスキリングやアップスキリングの機会を提供できるよう連携する必要があります。時間、財源、情報の非対称性の欠落は、往々にして高齢者の研修機会を妨げます。しかし、マイクロクレデンシャル(学習内容をより詳細な単位に分け個別に認証する方法)や非直線的な教育パス、リターンシップ、インターシップ、アプレンティスシップ(スキル習得にフォーカスした企業での職業実習訓練制度)、ジョブ・シェアリングといった戦略は、高齢者のニーズを満たすように設計されるべきなのです。

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「教育資金」を提供する
ACCESSヘルス・インターナショナル社 コンサルタント A.ヴィネズワリ氏、同ビジネス開発担当ダィレクター エイドリアン・メンデンホール氏
市場が公平なグローバル経済を追求する中で、国のリスキリングプログラムは、グローバル経済がもたらす機会をあらゆる年齢層が享受できるよう、人々を育成しています。シンガポールでは、Skillsfutureというムーブメントを通じて、年齢や開始地点に関わらず国民が選択したコースに使用できる教育資金を提供しています。教育機関ではなく個人に資金を提供することで、教育や生涯学習の資金調達方法を変革し、仕事のための準備から個人が持つ可能性を最大限に引き出すへと意識を向けています。年齢差別的な神話や従来の雇用慣行に挑むことで、経済的なレジリエンスだけでなく、生産的な世代間労働力が育まれるのです。
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「スキルアップした高齢者の統合を可能にする」職場を創出する

Novamed社 創業者兼マネージングパートナーおよび世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダー
デビッド・アレクサンダー・ワルコット氏
スキルアップした高齢者の統合を可能にする職場環境を作ることで、高齢者のエンパワーメントと働きやすい環境を維持することができます。コロンビア大学公衆衛生大学院のような職業能力開発を行うステークホルダーは、高齢者のリスキリングのための取り組みを推進しており、いくつかの小規模企業で成果をあげています。これらの成果は、職場の物理的な安全性を高め、職場に蔓延するエイジズム(年齢差別)をなくし、高齢求職者に対する支援強化など、高齢者が働きやすい職場環境を整える取り組みによって補完されるべきでしょう。
このようなシフトは、自らが担う貢献により活力を得て、長寿化する人生がもたらす恩恵を効果的に活用できる高齢者の強固なネットワークを生み出すでしょう。
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