協力と競争の両立こそが力に
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分裂の中にあっても、グローバルな協力は実を結んでいます。
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グローバルな協力体制
- 世界経済フォーラムとマッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した「グローバル・コオペレーション・バロメーター」は、分裂の中でもグローバルな協力は可能であることを示しています。
- 気候変動と自然、貿易と資本、ヘルスとウェルネスの分野における協力レベルは上昇傾向にある一方、イノベーションとテクノロジー分野は競争が激化し、平和と安全保障に関しては不安定な状態が続いています。
- 激化する競争の中で、協力を可能にする新たなアプローチを見出すことは、今後、最も基本的なグローバル課題に取り組んでいく上で極めて重要です。
世界各地で戦争が勃発し、企業はサプライチェーンを見直し、最先端のテクノロジーが戦略的競争の最前線となっている今、世界はますます競争的かつ対立的な時代へと向かっています。しかし、こうした分裂の兆しがある一方で、ある面では予想以上にレジリエンス(強靭性)の高いグローバルな協力が実を結んでいます。
たとえば、2023年、世界の経済大国20カ国で構成されるG20は、合意は不可能だろうという予想にもかかわらず、気候変動対策の強化と開発資金調達制度の改革について合意に達しました。また、同年秋に開催された気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、190カ国以上の首脳が初めて、化石燃料からのエネルギー転換に合意しました。
世界はばらばらになっているのでしょうか、それともひとつになろうとしているのでしょうか。
分裂か協調か
この問いに答えるため、世界経済フォーラムとマッキンゼー・アンド・カンパニーは、グローバルな協力状況を測る新たなツール「グローバル・コオペレーション・バロメーター」を開発しました。このバロメーターでは、42の指標を使用して、2012年から2022年にかけてのグローバルな協力に関して、以下の5項目を測定しています。
- 貿易と資本
- イノベーションとテクノロジー
- 気候変動と自然
- ヘルスとウェルネス
- 平和と安全保障
これらの項目に関する評価をまとめて、世界的な協力の現状を総合的に洞察しました。
バロメーターによると、グローバルな協力関係は2012年から2020年まで着実に上昇し、2020年以降は全体的に低下するものの、その下降は比較的穏やかで、下降の中にも上昇の兆しが見られることもありました。「気候変動と自然」に関する協力のレベル(9つの指標から成る複合指標)は、気候変動の緩和策と適応に対する資金拠出が増加傾向にあることが大きな要因となって、着実に上昇しました。とはいえ、気候変動に関する協力の拡大にもかかわらず、温室効果ガスの排出量は増加し続けています。次のステップとして重要なのは、コミットメントのモメンタムを結果につなげることです。
また、「貿易と資本」に関しては、パンデミック(世界的大流行)時に不安定な動きを見せ、2023年は物品の貿易が減少したと予測されています。しかし、パンデミック後には、この項目の多くの指標(労働と資本の流れを含む)が力強い成長を取り戻しました。
複雑化する状況
他の2つの項目は、より複雑ではあるものの、ここ数年でプラスに転じています。「ヘルスとウェルネス」分野での協力は2020年まで増加し、ヘルス分野の開発援助、健康関連商品の貿易、ヘルスケア関連の研究開発および知的財産のフローはいずれも堅調な伸びを示しました。しかし、ワクチンの分配における格差や、防護具や検査機器などの希少資源をめぐる競争は、パンデミックの集団的解決を妨げるものでした。それでも2021年以降、協力は拡大し、現在ではパンデミック以前の水準を上回っています。「イノベーションとテクノロジー」分野での協力は、2020年まで力強い成長を示しましたが、各国が主要技術の独占を競い、地理戦略上重要な商品の輸出を禁止したため、現在は横ばいとなっています。
過去10年間、特にパンデミック後のグローバルな協力において最も大きな足かせとなったのは、「平和と安全保障」に関する協力の急激な減少です。この項目に含まれる6つの指標の値は、強制移動した避難民の増加、サイバー攻撃、紛争、紛争に関連する死亡者数などを反映したものです。答えを導き出すのは容易ではないものの、力を合わせた取り組みが必要な分野であることは明らかです。
まず、協力し合いましょう。協力の前にすべてにおいて意見が一致するのを待っていては、行動の機会を失ってしまうでしょう。
”分裂の中でも実を結ぶグローバルな協力
グローバルに協力し合う状況には実際、プラスとマイナスの両方の要素が含まれるものです。しかし、両者が協力し合っているか、そうでないかというように、協力と対立を二元的にとらえる傾向があります。このバロメーターが示しているのは、分裂の中でもグローバルな協力は可能であり、実際に行われているということです。
これはまったく新しい話ではありません。冷戦時代、米国とソビエト連邦は、グローバルヘルス、安全保障、気候変動対策などで互いに協調していました。その結果、1980年代までに天然痘が根絶され、核兵器拡散協定が結ばれ、大気のオゾン層修復のためのロードマップが整備されています。そして企業は、ライバル企業と市場シェアを競い合いながらも、気候変動への対応など共通の目的を追求するために協調する、いわゆる「コーペティション(競争関係にありながらも協力の機会を見出すこと)」を長い間実践してきました。
二極化に傾いていながらも、協力する必要性が高まっている今日、リーダーたちは協力について再考する必要があります。現在、激化する競争の中で協力を可能にする新たなアプローチを見出すことは、今後、最も基本的なグローバル課題に取り組んでいく上で極めて重要です。それは、温暖化する地球、脆弱なグローバル経済、デジタル技術の急速な進歩にまつわる機会と懸念の増大、これらすべてに協力的な取り組みが求められているからです。
まず、協力し合いましょう。協力の前にすべてにおいて意見が一致するのを待っていては、行動の機会を失ってしまうでしょう。
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