水需要の急増が及ぼす、気候危機への影響とは
スペイン、カタルーニャ州の貯水池で犬の散歩をする男性。
Image: Reuters/Nacho Doce
- 深刻化するグローバルな水不足の解決は、気候変動への対応と同等に重要です。
- 水と気候の相互関係について、一般市民は驚くほど理解していません。
- 水使用量の急増に対処するには、市民、企業、政策立案者が協力する必要があります。
気候変動は、現代の重大な課題であると言われます。持続可能性の専門家として、これに異論を唱えるつもりはありません。私たちの未来にとってこれほど重要な課題は他にないでしょう。しかし、私が同等に重要であると考えるのは、水の安全保障への取り組みです。実際にこれらは相互に関連する課題ですが、水と気候変動の関連性に対する理解はまだまだ足りないのが現状です。コンサルティング企業のBSIが全世界9,300人を対象に行った調査では、気候変動への対応と同じく水の安全保障への対応が重要であると答えた人は半数以下(45%)にとどまりました。そればかりか、ほぼ認識されておらず、政治家の口からこの課題について語られることがよくあると回答したのは6人に1人だけでした。
この事実は憂慮すべきものです。同社はウォーターワイズ社と協力して41カ国における水使用状況を評価し、ほぼ3分の1の国で2023年よりも水の安全保障が悪化していることが分かりました。一方、43%の国では変化が見られませんでした。スペインとトルコの状況は特に懸念すべきものでしたが、実際には、水使用状況はどこでも大きな課題となっています。課題の大きさと、それに対してどのように取り組むことができるかについての理解を深めることが絶対的に不可欠なのです。持続可能性の専門家として、私は「できる」という姿勢を常に持っています。そして、そうしようという集団的な意志さえあれば、水の安全保障の進展を推進できると信じています。
急速に増え続ける水需要
私自身が中東に住んでいたため、水の安全保障は長い間、頭の片隅にありました。一方、特に干ばつにさらされず、定期的に降雨がある場所に住んでいる場合は、水は豊富だと簡単に考えてしまいがちです。いくつかの地域が他より乾燥しがちであるのは確かですが、水の影響はあらゆる場所に及びます。BSIの新しい指標によると、中国、インド、米国は、水の安全保障に関する課題が最も深刻な国々であり、その解決策における進展は限定的です。結局のところ、淡水の供給量は限られており、人々のニーズが増大するのに比例して減少しているのです。1900年から2024年にかけて、グローバルな年間水使用量は約3.5兆m3増加しました。これは、オリンピックサイズのプール(2,500 m3)と同じ量の水を2.79秒ごとに要求することに値します。この状況がすぐに改善される見込みはありません。グローバルな水需要は、毎年約400億m3増加すると予測されています。
オリンピックサイズのプール1杯分の需要が、今よりもさらに速い2秒ごとに追加される未来を考えると、時間を無駄にしている余裕はありません。メディアおよび政策立案者は、企業やその他の組織とともに、緊急の対話を形成する必要があります。その対話は、水安全保障というグローバルな課題の現実と、その課題の規模に対する一般の人々の理解とのギャップを埋めることから始めるべきです。インドの85%、オーストラリアの82%をはじめ、自国の淡水供給を信頼している人が全体で74%に上ったことは注目に値します。一方、同程度の人が、自国の課題に特に干ばつを挙げています。数字に矛盾があるということはつまり、課題の現実と一般の人々の理解、そして状況を好転させるために必要な行動の間には、懸念すべき断絶があるのです。
人々を教育し、情報を提供することが解決につながるのは明らかです。重要な第一歩は、気候変動に関する議論の中に水の課題を組み込むことです。気候変動と水の課題はフィードバックループの中で互いに影響し合い、地球規模での水循環の変化と人間の水利用が気候変動の影響を増幅させ、干ばつや洪水などの異常気象を引き起こし、水不足を悪化させます。同様に、水産業によって排出される二酸化炭素量の大きさを考慮すると、水を浪費することは炭素を浪費することでもあります。世界は未だ気候変動の緩和には至っていませんが、脱炭素化への取り組みは拡大しています。この流れを活かし、水の課題にも対応していくことができるはずです。気候変動に関する議論の中で水の安全保障を主要なテーマとして取り上げることで、意識を高め、理解を深めて、前向きな変化を促すことができるでしょう。
マインドセットの変革
もう一つの重要なステップは、解決策を考えるマインドセットに移行して、水の不安定さに対処するための実践的な戦略を採用することです。半数以上(53%)の人々が、個人レベルでの水の無駄遣いを減らす努力が重要だと考えていることは、前向きな傾向であると考えられます。一方、ネットゼロと同様、個人だけで状況を変えることはできません。企業と政策立案者が協力して、消費者がサステナブルな購買決定を行うことのできるツールを提供する必要があるでしょう。これは、英国で実施されているスマートメーターによる漏水の削減や、水耕栽培の導入による食料生産方法の転換など、簡単な取り組みから始めることができます。タイでは、カーペットメーカーのサイアム・ニトリが、水を消費しない染色法を採用し、オーストラリアとシンガポールでは、販売時に目に見える製品水効率ラベル表示システムの義務化を実施しています。また、サンフランシスコの建築基準には、「Water Reuse Requirements (水再利用要件)」が組み込まれています。
個々の事例はごくわずかなことのようですが、これらの取り組みがもたらす力は、人々に行動を起こさせ、水効率を消費者の意識の最前面に押し出し、持続可能な選択を可能にするためのさらなる技術革新を市場に促します。世界中で73%の人々が、製品の水使用量表示に賛成しているという事実を踏まえれば、人々が切実に求めている実行可能なソリューションの提供が必要です。
前述のように、私たちにはその力があると考えています。水が十分に確保された世界に向けて、進歩の兆しが見られる地域もあります。一方、理解を深め、前向きな変化を促すためには、まだやるべきことがたくさんあるのです。まずは、この課題の大きさを認識し、それがより広範な持続可能性に関する議論にどのように関連しているかを理解することから始めましょう。そこから、政治家や指導者が行動を起こすための道筋をつけることができます。
万能薬はありませんが、解決策は存在します。個人、組織、社会として、力を合わせれば私たちは多くを達成できるはずです。新鮮な水の供給が需要の増加に対応できる持続可能な未来に向けて前進しましょう。水不安に対処するための手段はすでに私たちの手の中にあります。今こそ、その意志を結集するときなのです。
Thirst for Change(「変化への渇望」)レポートはこちら。
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