「グリーン教育」により、ネットゼロへの移行を加速

アブダビのアブドゥラ・アル・グレア・グリーンコミュニティ・イニシアチブの一環であるマングローブ再生活動に参加するソニア・ベン・ジャアファル博士。
Image: Abdulla Al Ghurair Foundation
- エネルギー転換の実現には、グリーン雇用の創出だけでなく、持続可能性に向けたマインドセットの転換が必要です。
- スキル不足に対処するために焦点を絞ったグリーン教育は、グローバルエコノミーの形成に役立ちます。
- 戦略的な慈善活動は、このような教育の設計と実施に必要となる革新的なパートナーシップを促進することができます。
グリーンジョブ、グリーンスキル、グリーンエコノミー。こうした言葉を耳にする機会が増えてきましたが、それには理由があります。各国がネットゼロ目標を達成するためには膨大なエネルギー転換が必要です。LinkedInのデータによると、「グリーン」な仕事の求人は、その仕事に必要なスキルを持つ労働者数の倍近くの速さで増加しています。
この課題をクリアするための障壁としてよく話題に上がるのは、グリーン転換に関連する特定のスキルの潜在的な不足です。LinkedInが過去5年間に48カ国で実施した調査によると、グリーン雇用の求人件数は毎年8%増加している一方、労働者の8人に7人はグリーンに関するスキルを1つも持っていませんでした。1,000人の世界的なビジネスリーダーを対象としたエコノミスト・インパクトの最近の調査では、回答者の62%が、グリーンスキルの不足が世界のネットゼロ移行を遅らせる可能性がある、と考えていることが報告されています。
一方、仮にこのスキルギャップを埋めることができれば、レジリエンスの高い世界を十分に形成できるのでしょうか。私は懐疑的です。必要なのは、より広くかつ深い取り組みであり、持続可能性を意思決定、習慣、実践の中心に据える真の意識へと集団的なマインドセットを転換することなのです。
グリーンスキルについて定義を拡大すると、ソーラーパネル技術者の専門的スキルから、環境政策立案者によるプログラム、グリーンファイナンスの投資会社で働く会計士まで、すべてが含まれます。また、コミュニケーション担当者や地理教師の伝達可能なスキル、コミュニティ・リーダーの地域に根ざした知識も含まれるでしょう。つまり、グリーンスキルとは、持続可能な社会で生活し、それを支えるために必要な知識、態度、能力を包括するものなのです。
グリーン教育の進むべき道
アブドゥラ・アル・グレア財団(AGF)では、数年前からそのような道を歩み始めました。COP28を控えた2023年、AGFはアラブ首長国連邦(UAE)教育省から、Green Education Partnership Roadmap(グリーン教育パートナーシップロードマップ)の戦略的パートナーになるよう要請されました。その目的は、「環境にポジティブな影響を与える意思決定をするために必要な知識とリソースを学生に提供」することにより、未来を積極的に形作ることでした。
COP28では、世界中の学習者が気候変動に対応できるようにすることを目的とした、世界的なイニシアチブである「Declaration on Education and Climate Change(教育と気候変動に関する宣言)」が発表されました。現在までに90カ国がこの宣言に署名しています。
AGFのような戦略的慈善活動は、様々なステークホルダーがグリーンスキルの教育をスケールアップし、地域社会で必要とされる幅広いマインドセットの転換を実現するための調整役として最適な立場にあります。残念なことに、現時点でこの課題に取り組む慈善活動は非常に少なく、世界の慈善活動のうち、気候変動に関連する取り組みに充てられているのはわずか2%に過ぎません。
グリーン教育の実践
対照的に、UAEでは、AGF、政府、民間団体の協力により、データドリブンかつエビデンスに基づくグリーン教育プログラムが数多く新設されています。例えば、Al Ghurair Open Learning Scholars Program(アル・グレア・オープン・ラーニング奨学生プログラム)は、青少年に質の高いオンライン教育を提供し、キャリアの準備、経済的な支援、さらに学習者が持続可能な生計を確保するために必要なあらゆる支援を提供することに重点を置いています。
また、AGF、UAE教育省、UAEの9大学間のパートナーシップであるUniversity Consortium of Quality Online Learning(UCQOL:大学オンライン教育コンソーシアム)は、地方大学が質の高いオンラインコースを提供する能力を高めます。UCQOLは、遠隔地や紛争地域、気候変動の影響を受けている地域など、学生がどこにいても受けられる、持続可能かつ包括的な学習環境を可能にしています。
さらに、UAEのグリーン教育ロードマップと連携したGreening Communities Initiative(グリーンコミュニティ・イニシアチブ)もあります。このイニシアチブの一環として、2023年、AGFはUAE教育省、Sharjah Entrepreneurship Center(Sheraa:シャルジャ起業家センター)、エキスポ・シティ・ドバイと連携し、新しいエコプレナーシップ・プログラムを設計しました。エコプレナーシップとは、エコ(eco)と起業家(entrepreneurship)を合わせた造語であり、環境に配慮した製品などを開発する起業家を指します。このプログラムでは、これまでに150人以上の18歳から35歳の若者が、理論的な知識、実践的なスキルのトレーニング、指導の機会、資金援助を受けています。
このプログラムから、COP28にて、潜在的なスタートアップ企業を売り込む5チームが選抜され、上位3チームが16週間のアクセラレーター・プログラムに参加し、アイデアを実現するチャンスを獲得しました。こうしたイノベーションには、衛星画像とAIモデルを活用した公衆衛生に影響を与える汚染源のモニター、革新的かつ持続可能な農業技術を奨励することを目的とした地元産ホホバオイルの生産と販売への注力、農業用のインテリジェントな太陽光発電灌漑システムを監視するモバイルアプリの作成が含まれています。
グリーンコミュニティ・イニシアチブに含まれるもうひとつのプログラムは、気候に関する意識向上に重点を置いています。これまでに、1,370人の生徒、保護者、市民が、海辺から砂漠、コミュニティセンターまで、さまざまな場所で開催されたワークショップに参加しました。いずれも大学、学校、アカデミー、地方自治体との協力により運営されており、気候変動が生活のあらゆる側面に影響を与えうることを強調しています。
低年齢の子どもたちを対象とした「Takween Al Ghurair(タクウィーン・アル・グレア)」は、Emirates Schools Establishment(首長国連邦学校設立局)との戦略的コラボレーションです。放課後に行われる活動ベースの全国プログラムには、子供たちがUAEの将来の知識経済に参加するための準備を行うコースがあり、国連の持続可能な開発目標に焦点を当てた、持続可能性の認識が含まれています。同プログラムには、これまでに1,000人以上の生徒が参加しました。
参加者たちは、新たな洞察力を身につけると同時に、これまでとは異なる意識を身につけています。ある子どもはこう話しました。「まずは、タクウィーン・アル・グレアからもらった金属製のボトルを使うことから始めます。次に、レストランで注文するときは、プラスチックのスプーンではなく、金属のスプーンを使います。また、Talabat(オンラインの料理注文会社)では、プラスチックのスプーンを受け取らないよう、常に『カトラリーなし』をクリックし、環境に貢献することも学びました」。
私たちがプログラムを通じて目指しているのは、こうした教訓です。参加者が習慣や考え方を変えることによって、私たちの未来も変える教育なのです。
グリーンエコノミーの構築
世界中の他の多くの組織と同様に、私たちもグリーン教育の取り組みを始めたばかりです。戦略的な慈善活動は、必要な変化を加速させる重要な役割を担うことができ、またそうなら なければならないと確信しています。ここで紹介したような広範な協力関係を通じて、慈善活動は効果的なアプローチを構築して規模を拡大し、就職のために特定のスキルを提供するだけでなく、誰もがよりグリーンな経済と持続可能な世界への変革の一翼を担える意識を醸成することができるのです。
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